11.W−CUPでの日本チーム 2003年4月18日
 大抵の事は言い尽くされているだろうから、思いついた事だけ書きます。

1対1に弱い守り
  キーパー、楢崎は1対1になって直進対決という状況が苦手で、彼が困ったなと思いながら出て来ていることが見ていてよく解るが、これは拙い。シューターはキーパーが弱気だと感じとると、自信を持ってシュート出来る。だから、あれでは防ぐことは難しい。キーパーは常に、どんなに不利な場合でも、無理やり自分に鞭打ってでも、100パーセント強気になって向かっていかないと駄目だ!
  DFは1対1に強いとは言えない。細かい事はさておき、要するに経験不足、つまり国内の試合で攻撃側があまり1対1を仕掛けない為で、それは遡って少年時代の1対1不足に原因がある。大人になってからでは1対1の練習などそう出来るものではないから、是非少年期にたっぷりやっておかないといけない。だが、未だにそういう考えの指導者が少ない。私はコーチ時代、いろんな状況での1対1や相手ありの実戦的練習に十二分に時間をかけた。どうしたら大敵動作の能力をアップ出来るか、ありったけの知恵を絞り練習法に工夫を凝らしたものだが・・・・

日本の攻撃に欠けているもの
  意外性、相手の裏をかく、騙す、駆け引きといったものは、日本の場合、チームとしての攻撃でも、選手それぞれのプレーでも、極めて乏しい。やろうとも思ってないようである。
  と云うのは、もともと日本サッカー界では戦い方や戦術、戦法は正攻法的、教科書的なものだけで、そうしたものは戦術、戦法の中に入ってないからである。昔から我が国ではそんなところがあり、例えば、大相撲では押しに押すのが正道、王道で、投げ技は脇に置かれ、はたき込みなど非難されかねない。
  しかしこれからは、そうしたこれ迄の日本サッカーに欠けていたものが絶対必要になる。ブラジルの項で書いたように、そうした知恵は、対敵動作などに自信があり、余裕があるほど巧く働くから、その為にもう一段のレベルアップが必要で、子供の頃から1対1の中に、駆け引きや相手の裏をかいたり騙したりすることを最初から組み込んで、習慣づけてしまうことが大切である。
  FIFAが今回のWカップで、フィジカル面を消耗するゲームプランを日本の欠点の一つに挙げているが、よく言ってくれたと思う。指導者達は、動け、走れと言うばかりで、体力、走力消耗の効率度を無視しているからである。いくら鍛えても体力走力には限界があるのだから、もっと効率の良い使い方を心がけ工夫すべきである。例えば、無駄走りを無くす。緩急の変化を加える。相手の意表をつくとか守備陣の崩しなども狙って、最初に見つけた味方相手でなく二番手、三番手にパスするなど。
  今回、シュート数の割りには巧く得点できたが、得点力向上ははやはり永続的課題で、もっと1対1で勝負して欲しいし、森島をもっと見たかった。

柳沢のプレーを巡って
  以前、吉岡弟が小六の時、私は神戸の大会で西日本小学校選抜の監督をしたことがある。メンバーに富山から選ばれたNという子がいて、指導者の先生もコーチでついて来たが、その先生にはパス指導で一寸驚くような特技があった。どこでも指導者は選手のプレーを見ていて、「今、パスだ!」、と思っても、その瞬間に指示することが出来ず、後から叱ったり文句を言ったりするものだが、彼は違った。
  Nがボールを持って、今、パスしたらいい、という瞬間、「パス!」、と大声で叫ぶのである。早からず遅からず、ドンピシャのタイミングだから、選手は言われた瞬間にパスすればいいわけだ。それで実際にはどうかと云うと、Nは慣れているからいいが、吉岡は自分で判断してパスしようとした途端に、「パス!」、と怒鳴られたものだから、吃驚して一瞬、プレーが止まってしまった。
  どうしたらその瞬間を教えることが出来るか、苦心して編み出したご自慢の指示法に違いない。しかし、果たしてそれでいいのかどうか?選手はロボットで、指導者がリモコンのスイッチを押すとロボットがパス。繰り返しているうちに彼の記憶装置がタイミングを覚える。そんな感じもしたが、とにかく驚いたのでよく覚えている。
  あれから歳月が流れ日韓Wカップが近づいた或る日、代表の柳沢を出身地、富山で指導した先生の談話を聞いた。「得点がすべてではない。得点に直接関係なくても、チームのために役立てば立派な仕事なのだ。」、と教えてきたと言う。その先生の名前はN、何とあのN少年が成長し先生になって、柳沢にサッカーを教えていたのだ。
  かつてパスのタイミングを大声で仕込まれたN先生が、柳沢に自分が受けたのと同じような教え方をしたのかどうかは不明である。だが柳沢が得点以外のプレーがとても得意で熱中しているのを見ると、Nの師匠の奇妙なパス指導の記憶があまりにも鮮烈だった為に、N先生が師匠譲りのやり方で彼に念入りに教え込んだのかな、などと、つい想像したくなってしまう。
  どちらにしてもそのお陰でトルシエが彼を気に入って代表に定着できたのだが、惜しむらくは得点力不足である。少年時代にもっと得点意欲を持たせて決定力をつけておくべきで、そういう方向づけが欲しかった。チームワーク、チームプレーを教えるのもいいが、皆、縁の下の力持ちになってしまっても困る。日本人が苦手としている得点力の養成、強化、点取り屋の発掘、育成にもっと眼を向け努力すべきである。
  柳沢は創造性に欠けるが、教えられたとおりにプレーし、指令や申し合わせを忠実に守って行動するので、日本サッカー界ではとても喜ばれるタイプである。先日、ある所でそんな話をしたら、たまたま同席した人が、鹿島のビスマルクが、「柳沢にこうしてくれと注文すると、ちゃんとそのとおりにプレーしてくれるので有り難い。しかし、自分のアイディアとか閃きで創造的にプレーする事は出来ない」、と言ったと話していた。私の観察はほぼ的中していたわけである。

おわりに
  日本チームについてはトルシエのもとでは、あれで精一杯だったと思う。外人なら喧嘩してチームが分解しただろう。ともあれ、オリンピックの百米走に譬えれば、やっと十秒台での争いに参加出来るようになったところで、全てはこれからである。


近江 達

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