トルコ 2003年2月17日
第一印象と大違いだったトルコ
 トルコといえば、タッ・タータ・タッとお馴染みのマーチが聞こえて来て、トルコ帽に金モールの一隊が右向いたり左向いたり、あの変てこな行進の光景が浮かんでくる。ほかには、海上から眺めたイスタンブール、ロシア嫌いからの親日感情、その程度の知識しか無く、位置関係から、アラブ、西南ロシア、東欧の中間的なサッカーを想像したが、実物はアラブと関係なく、カザフスタンのサッカーをレベルアップした程度のやや田舎っぽい印象で、マスコミや識者の評価も高くなかったから、日本との初顔合わせでは、日本が勝てる相手だったのにと、盛んに悔しがる声が上がった。
 ところが、この第一印象は全く当てにならなかった。トルコの戦いぶりは一戦ごとに変わって行き次第に輝きを増して、最後に韓国を下し三位を勝ち取って全貌を現したとき、評価は一変、ヨーロッパ・スタイルでかなりハイレベルと大いに賞賛された。
 あとから考えると、日本との試合で、トルコは随分攻められて守勢一方だったけれども、実はあの時、彼らはシュートされても大丈夫だと、日本の力を十分見切っていたのかも知れない。

南米なみのサッカー環境
 先日、TVでトルコのサッカー事情が紹介された。最初に画面に写ったのは競技場や盛り場で興奮、熱狂する大群衆。これは海外では珍しくないが、予想外だったのは町のあっちこっちで子供たちがストリート・サッカーで遊んでいて、大人も、照明つきのサッカー場が方々にあり、夜もいろんな年齢の人々が大勢ゲームを楽しんでいた事である。
 まさかトルコがこれほどサッカーが盛んで設備も整っている国とは思っていなかったので驚いたが、これならハイレベルのチームが生まれても不思議ではない。その上、後述するようにドイツの好影響があったのだから、Wカップ三位を勝ち取れる下地はほぼ整っていたと言ってもよいだろう。

ハイレベルだったトルコ選手達とドイツの関係
 大部分のトルコ人のルーツは、現在、カザフスタンなどの国々のある中央アジアの民族だと云う。道理で、はじめカザフスタンのサッカーみたいに見えたわけだ。その昔、オスマン・トルコ時代にヨーロッパへ進出したトルコ人の子孫と、その後の移民で、現在トルコ人は広くヨーロッパ各地に住んでいるが、中でもドイツへの移民が非常に多く、既にそこで生まれ育ったトルコ人のプロ選手たちが活躍している。
 その関係からトルコ・サッカーはドイツ・サッカーの影響が大きいらしい。そう言えば、ラインいっぱいの広い展開やボールの軌跡、選手の動き出しのタイミング、動き方、選手間の距離、間隔が比較的広い事など、確かにドイツに似ている。
 だが、もっと注目すべきは、彼らが試合相手に応じて戦い方を変え、試合中も、大局的にも局地的にも色んな試合運びが出来た事である。それも選手達自身のセンスや戦術能力で、状況打開から得点出来る形作りまで色んな攻守を臨機応変、適切巧妙にやってのけた。トルシェは試合前、「トルコは狡猾」、と言った。私はこの発言がずっと気になっていたが、果たせるかな、トルコはなかなかの曲者(くせもの)だった。
 彼はトルコの実力を知っていたのではないかと思う。

高度の戦術的実力を身につけるには
 逆に言えば、レベルの高い大会になると、選手一人ひとりがこうした戦術的プレーをしっかりこなす事が出来ないと、上位進出は難しい。私の考えでは、そういう選手に仕上げるには、先ず第一に、幼い頃から子供なりに、自分自身の眼で見て判断工夫してプレーする自発自立の、自由度の高いサッカーを続けて、大人に成長して行く事が必要不可欠である。トルコは熱狂的なサッカー愛好国だから、この点は大丈夫だろう。
 第二はレベルの高い相手と試合経験を十分に積む事。トルコは欧州との交流で可能。
 第三は単なる強さ、速さといった力ずくで勝つのではなくて、戦術的能力による勝利を目指す事。指導者、選手の方向、目標が大切である。その点、トルコに影響を与えたのが、サッカーの本質的なものをしっかりとバランスよく備えているドイツだったという事は、とても幸運だった。

ドイツ人コーチの見解
 後から知ったのだが、トルコ・チームにはドイツで生まれ育った選手が7人いた。あるドイツ人コーチは、「彼らは技術能力はトップクラス。必要なのは秩序。個人プレーに偏らないで、組織プレー、チームプレーを心掛け、冷静と集中を切らさない事だ」、と語った。今回の三位は要求どおりのプレーが出来た賜物だろう。
 考えてみれば、もしトルコ・サッカーをドイツ系のサッカーに入れてよければ、優勝こそブラジルに譲ったけれども、二位、三位はドイツとドイツ系サッカーが独占したと云うことになる。

見事なペアのパスワーク突破、得点!
 トルコの試合で最も素晴らしかったのは、韓国戦での二点目、三点目の突破得点シーンだった。二点目は、最前線でツートップの一人、イルハンが韓国DF二人を相手にボールキープしていると、その左のスペースへ、もう一人のハカンが上がって来て、横パスを受けてドリブル突破、ペナルティ・エレアに入って右へパス、上がって来たイルハンが受けて得点。
 三点目は、ハカンがイルハンにヘディング・パス。イルハンはリターンパス・アンド・ラン。再びハカンからのパスを受けて得点。
 よくありそうなパスワークなのに、私は初めて見たような気がした。彼らの呼吸の合ったプレーがあまりにも鮮やかだったからだろう。ツートップに限らず、誰でもこうすれば、二人だけでも突破、得点が出来るわけである。

◎私も前線でボールを持った時、今、隣の小さいスペースに誰かが来て、横パスを受けくれたら、彼はシュート、得点出来るのだが、と思うことがある。残念ながら、実行出来たのはこれ迄に二回しかなかったが、二回とも得点出来た。
 サッカーは一人では出来ない。前以て打ち合わせてなくても、状況から、こちらの期待に答えてくれるようなイマジネーション、アイディアが欲しいのだが。


近江 達

BACK MENU NEXT