9.ロナウドとリバウド 2003年3月14日
ブラジルの二人
 ブラジル選手のプレーで印象に残ったものが幾つかあったが、中でも、ロナウド、リバウドの二人は、どちらか欠けても、ブラジルの優勝は無かっただろう。
 二人はいろんな点でかなり違う。Wカップでロナウドが大五郎カットをしていたので、時代劇で例えると、リバウドは精悍でいささか険のある太刀落とし差しの素浪人、ロナウドは角帯、雪駄ばきで恰幅のいい商店(おたな)の旦那といったところ。グラウンドでは、やせ型で突っ立って見えるリバウドは素早く叩きつけるようなシュート。ロナウドは天才と言われるが、そんな雰囲気は全然なく、短足でベタベタ走りボールを送り込むようにシュートする。外見だけ取り上げると一寸珍しいタイプで、日本にはこんな異相のストライカーは居ない。こんな二人の違いが如何にもブラジルらしくて面白い。

リバウドの凄み
 私はリバウドについて何も知らず、TVで初めて見たのだが、このWカップでの彼は終始、小気味よく活躍し、切れ味鋭いプレーにはしばしば凄みさえ漂っていた。
 《イングランド戦》 ロナウジーニョのドリブルからのパスを左足でゴール左隅へシュート、得点。非常に難しいコースだったが、一瞬、相手の隙間からゴール左隅を狙って、左足だけでなく、左肩を下げ体を少し開き、しなやかに全身でボールが飛ぶコースと球速をデリケートにコントロールしたと云った感じで放ったシュートはまさに正確無比!
 彼に限らず、優秀なプレヤーは、シュートやパスをするとき、正確を期して、よくああした身のこなしで、丁寧にキックすることが多い。
 《ベルギー戦》 ゴールにほぼ背面したリバウドはボールを胸で受け、左足で高く浮かせ、時計回りで回転、落ちてくるのを左足でシュート、得点。(以前、トヨタ・カップでのプラティニのシュートを思い出す。)
 こういう難しいシュートは練習でゆっくりなら出来る人がいるだろうが、試合では相手が妨害してくるので急がないといけないから、至難の技になる。ましてWカップのような大試合の厳しい場面となると、滅多に成功することはないと思う。にも拘わらず、リバウドはそれをものの見事にやってのけた。
 これ以外のシュートも素晴らしいものがあった。技術もさることながら、慌てず、急ぎ過ぎず、飽くまでも正確に狙いを定めて得点出来る冷静さと濃密な集中の凄さにはつくづく感服する。曲者、リバウド恐るべし!

ロナウドのトラップ・アンド・シュート 
 決勝戦で、右外からの横パスをリバウドがスルー、そのボールをロナウドは上手くトラップ、チラリとゴールを見て、右隅を狙って丁寧にシュート、得点。
 これと同じようなプレーを彼は去年、トヨタ・カップに出場したレアル・マドリッドでも見せた。左ライン際に上がって来たロベルト・カルロスが右斜め前方へロベカル独特の速く鋭いクロス・パス、名手ラウルは足もとに来たボールをわざと触れないで前を素通りさせる。その瞬間、中央右のロナウドがダッシュ、スライディングしてきた相手DFの足先をかすめて来たボールを綺麗にトラップ、素早くキーパーの右側、右ポストの内側へ、例の丁寧に送り込むようなシュートで得点したのである。
 このプレーを見て、かねがね思っていた事を書くことにした。スルーとトラップしてのシュートに関する事である。

◎シュート・レンジでは、スルーに対応出来るように準備てしおこう! 
 得点する為に、攻撃側は、スルー、ワンツー、各種のセンタリングなど、いろんな手を使う。プレヤーは互いに意図、狙いを察し合い、呼吸を合わせ上手く連係して、得点出来るようにプレーしなければならない。
 通常、スルーは、状況からシュートしたい選手(二番手と呼ぶことにする)が、今まさに送られて来たボールを迎えようとしている味方選手(一番手と呼ぶことにする)に、「スルー!」、と声をかけて、彼にスルーしてもらう。
 スルーにはもう一つ、やり方がある。最初にボール・タッチする筈の選手(一番手)の方が、自分だけの判断や閃きでスルーをやるのである。
 この場合はスルーと言わないで、突然やることが多い。その為に、相手チームの選手が引っ掛かるだけでなく、肝心の受け手(二番手)や他の味方までが不意を衝かれて反応出来ず、シュートどころでない事がよくある。
 これは私も経験がある。シュートしてくれる筈の味方が全く予期してなかったので、あれなら自分でシュートすべきだったと何口も反省したものだ。
 そこで注文だが、シュート・レンジに入るプレヤーは、味方から斜めや横パス、センタリング、クロスなどが来そうになったら、状況から、これはスルーもあり得ると考えて、もしもそうなったら上手くシュート出来るように用意しておいて貰いたいのである。その心構えや用意がないと、十中八九、失敗で、シュートは出来ない。
 一般に、よく「声を出せ!」、と言われるけれども、私に言わせれば、スルーと声をかけてもらわないと対応出来ないようでは、一人前のプレヤーとは言えない。ちなみに日本に現代サッカーの基礎を教えたクラマー・コーチ(独)は、パスを寄越せと呼ぶと、相手に解るから、テレフォン・パスは止めるべきだと注意している。

◎トラップ・アンド・シュートのすすめ
セオリーでは、シュートはダイレクト・シュートがベスト、という事になっている。ダイレクト・シュートはキーパーが防ぎにくい、という理由である。しかし実際には、この原則にこだわって、どんなボールでも必ずダイレクトで蹴るものだから、失敗する者が非常に多い。ダイレクトはキーパーにとって失点率が高いというのが事実であっても、シューターにしてみれば、ダイレクト・シュート向きの好球はそうそう、いつもあるものではない。むしろダイレクトでは得点しにくいケースの方が多いだろう。むろん、シューターの技術にもよる。だから、何でもかんでもダイレクトとか、何が何でもダイレクト・シュートというのは間違いであって、ダイレクトにこだわり過ぎてはいけない。
 だから、ダイレクトが難しいと直感したら、躊躇なく、トラップしてシュートするべきである。また、より確実に得点するために、ダイレクトでなく、トラップして素早くシュートする方を選ぶ、という事を



近江 達

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