(6)泥臭かった切り返し 近江 達
泥臭かった切り返し
 試合中、誰かがボールをもつと、相手側から、「切り返しだけだぞ!」、などと侮辱をこめた声が飛ぶことがある。そんな扱いを受けるいわゆる切り返しだが、考えてみると、初心者からベテランまで誰でもやるけれども、バリエーションは多種多様で巧拙や工夫がピンからキリまであり、別段侮蔑されるような技術ではないと思う。
 それはさておき、あの頃、我々小学生がよくやったのは原始的な文字どおりの切り返しで、はっきりボールを動かして逆をとる泥臭いものが多かった。たとえば、左へ横ばいしながら右足のインサイドでボールを左へ動かし、相手がボールに寄って来たら、逆をとって左足でボールを右へ切り返してドリブルで抜く。もし相手が引っ掛からないで切り返しについて来たら、充分右に寄って来たところで、もう一度逆へ左横に切り返して抜くのである。
 経験者はご存じのように、必ずしもそんなにボールを動かさなくても抜くことは出来る。たとえば、相手を前にしてボールを足もとに置き、急に左へドリブルで出て行きそうにする。だがそれは、実はボールに殆ど触れないで、真に迫った身体の動きで、いかにも左へボールを動かして出ると思わせて騙すフェイントであって、相手が反応してそちらに引きつけられた瞬間、逆をとり右へドリブルして抜き去るのである。
巧くなれば、要するに、相手がこちらの動きについて来れないか、仕掛けに引っ掛かってズレが生まれさえすれば、相手をおきざりに出来るわけだが、初心者としては、ボールを動かしてしっかり逆をとる方が解り易い。またその方が面白かったのだろう。

かつけ球とフェイント
 テニスボールを当てる、枠のないドッジボールみたいな遊びをかつけ球と呼んで、休み時間に時々やった。数人が散らばって逃げ、一人がテニスボールをぶつける。当てられたらアウト。よけるか、捕球したらセーフ。セーフで当てられてないものはボールを取ったらぶつけることが出来る。次々にアウトになり最後に残ったものが勝ち。
 私には顔の向きと違う方向に投げて当てる特技があった。サッカーで身体の向きと違う方向にパスするのと同じで、例えば、身体はいかにも北のAを目がけて投げるようにみせて、手だけで東のBにぶつけるのである。こんな調子だったから、ドリブルのフェイントや意外性のあるプレーは、むろん大好きだった。

おじゃみ(お手玉)つきとボール・リフティング
 昭和14年頃、女子のお手玉より少し大きい布袋にほんの少し中身を入れた軽いものをおじゃみと呼んで、それをボール・リフティングのようにインサイドやアウトサイド、片足、両足などでつく遊びがあった。1回つくごとに蹴り足を地面につける普通のやり方と、一度も蹴り足を地面につけないで、ずっと浮かしたままつき続けるやり方があつた。ニ、三人で回数を競うのだが、何百回もつく者もいて、私も三百回以上つくことが出来た。後年、クラマー・コーチが来日してからボールリフティングが普及したが、私は子供の頃やったこの遊びのお陰で、すぐにアウトでボールリフティングが出来たし、インサイドでなら、走りながら100回以上つくことが出来た。

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