(37)§損な性格、スポーツマンは少し鈍な方が得! 近江 達
§損な性格、スポーツマンは少し鈍な方が得!
 私の選手としての基礎は神戸三中で培われた。例えば、試合中、ボールから眼を離すな、踵を地面につけるな、といったサッカー選手としての心得とか、ウイングはセンタリングする時、蹴る方向に軸足を踏み込め、逆からのセンタリングを必ず外側からやや弧を描くように詰めてゴールポストにさわれ、など教わった基本はしっかり身に付いている。三中の個人技、ドリブル重視の方針も良かったし、私に合っていた。
 あれからほぼ順調に成長したと思うが、一人前になるにはまだいろんなものが必要だった。左ウイングの時、左インナー小山さん(二回生)との三角パスがうまく合わず、よく叱られた。当時は解らなかったが、ただ機械的に行動しただけで、相手の対応への観察、状況に応じた判断工夫や駆け引きなど、戦術が欠けていたのである。
 インナーならパス出しが得意で自信があったが、相手ゴールに背面しマークされながら、ボールを受けて相手ゴールの方に向き直るのが難しかった。(当時の体験から必要性を痛感して考案工夫したのが、枚方FCのマークされての実戦的練習である。)
 それにスポーツマンらしからぬ性格が災いした。グラウンドでは先輩、後輩の区別は無く遠慮は無用だ。でないと万事うまくいかない。それはわかっていたが、一回生だし遠慮勝ちな性格の為に上級生とプレーしにくくて困った。ところが一回生でも三高勢は上級生とへっちゃらでプレーするものだから、こっちは具合が悪く、叱られたり誤解されたり散々で、もっと実力があるつもりだったから無念でならなかった。
 考えてみれば普通、そんな事は高校時代、上級生とプレーして経験済みの筈なのだ。ところが、私の場合は逆に上級生の方が下級生の私に一目置いてくれたので、気兼ねなく思うようにプレー出来た。だから大学で初めて苦労する羽目に陥ったわけである。
 性格と言えば、三十歳代、試合中シュートしようとした瞬間、初対面の12年も後輩の京大出らしからぬふてぶてしいOBに、「どけ!」と怒鳴られて譲った事があった。シュートしたい時に人が蹴ろうとしたら、蹴られないように声を掛けるものだが、実は私は長い選手生活で一度もやった事がない。それでよく人にシュートや得点を横取りされた。未だにそれは変わらない。気に障るが、誰だって皆得点したいのだから、まあいいかと思う事にしている。内気だと損ばかり!少し鈍な方がよい。

§二回生、新チームで左フルバックに下がる
昭和25年4月、新チームが発足。8人卒業して、残るレギュラーは新三回生がセンターフォワード小山主将、新二回生は私と大石、西田両ウイング、キーパー大橋、新制の左ハーフ長井と準レギュラー2人。優秀な選手は入部してもすぐレギュラーに成れないと大抵止めてしまうので、サブはいるが空いた最終ラインを埋められる適切な控え選手が足りなかった。そこで例によってバックも出来る私が下がって、私のあと、左インナーには三高で巧技で鳴らした片山が入る事になった。小山主将はこの間の事情を京大蹴球部70周年記念誌に、「新チームの形を作らねばならず、取り敢えず各人の経験したポジションを割り振ってみたら、バック陣は新制の人ばかりで、何だか芯が抜けたような布陣になってしまう。やはり連携プレーには核になる精神的支えが必要で、近江君にバックに下がってもらい、何とか格好がついて来た」と書いている。

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