(70)§素早く見て、抜け目なく知恵を働かせる習慣をつけよう! 近江 達
§素早く見て、抜け目なく知恵を働かせる習慣をつけよう!
 試合中、選手は状況に応じてプレーする。対応は、作戦や指令どおり、慣習的、創造的など様々だが、結局、サッカーは選手たちの自作自演で成否は選手次第、チームは団員が適宜即興演奏するオーケストラのようなものである。ハイレベルになればなるほど彼らも楽しいから、少年たちを是非そんな選手に育ててやりたい。だが指導者の会合で「少年期は個人育成」と言うと、即座に「サッカーはチーム育成!個人は誤り!」と一蹴された。おまけに当時は下級生は体力、次が技術、最後に上級生で戦術と分習する為にレベルが低く、戦術がわかる頃は年齢的に体力がもう下り坂だった。
 伝統とはいえ、欧米は若くてもレベルが高く三拍子揃った選手が多いからこれはおかしい。日本人も育て方を変えれば修得を早めレベルアップ出来るに違いない。例えば選手は状況や相手を見て頭を働かせ、どうするか決めて(戦術)プレーするが(技術)、一瞬の直感的プレーだと戦術と技術は分け難い。感覚と経験が大切なので分習でなく全習が必要だ。戦術も、下級生が戦術とは生意気な!もっと上手くなってからだ、と叱られたものだが、子供でさえ二人向かい合い相手のハンカチを抜き取る遊びでは、隙あらばと狙い立派に戦術的に知恵を働かせ駆け引きしているではないか!
 だから私は、幼少時からなるべく技術と戦術を一体として扱った。戦術は感覚と頭脳の働きで生まれる。これが大切で、既知の戦術もそれなしでは活用出来ない。例えば試合で勝つには、相手と状況を見て感じて、隙や弱点を見つけチャンスと感じたらすかさずそこを衝く。抜け目なく要領よく考え知恵を巡らせ創意工夫が必要な場合もある。そこでミニゲームや実戦的練習(全習)で、先ず第一にそういう風に感覚や頭を働かせてプレーする習慣をつけ、癖になるように仕向けた。大人では手遅れ、年少のうちに必ず身につけること!知識や戦術戦法はあとから幾らでも覚えられる。

§公式、例題、応用問題、条件付きミニゲームの活用
 指導者は教えた事を試合ですぐやれと言うが、相手が妨害するし大抵うまくいかない。そこで私はその間に条件付きミニゲームを入れた。例えばセンタリング攻撃を練習。次ぎに軽く妨害者をつけ、最後はセンタリングからの得点だけ認めるミニゲームをやる。同様にワンツーから、ラストパスから、特定パスから、指名選手だけ得点とか、ダイレクトパス3回から、マンツーマン・マーク、ロングシュートなど。
 これが習慣づけの次ぎの私独自の戦術教育法だった。数学で公式や定理を習ったら例題をやって理解し、練習問題、応用問題を解いて力をつけるのと同じで、試合は試験だ。選手は自分で研究工夫せざるを得ない。やがて要領をつかみものにして、試合で発揮出来る技が増え応用力がついて、自分たちの発想、意図で多彩な攻撃が出来るようになった。適切な人数の条件付きゲームは極めて有効で、攻守両方が出来て、いろんなポジションを覚え右も左もこなせるようになる。攻撃:守備ではWMシステムを基本に、今度は4バック、次ぎはツートップと練習し、スリートップも最終ラインも左右、中央、どこでも出来るようにしたので、試合中、指令なしで、選手たちが各自判断して相手の出方に対して臨機応変にシステムやポジションを変えて対応出来るようになった。枚方が戦術的に優れていたのはこうした練習法の賜物だったのである。

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